2013年6月17日月曜日

南場智子『不格好経営』は大変面白い本です

この本は本当に面白い。
そして感動的である。


第1章から第6章まではDeNAという会社と南場さんご自身の歴史になるので、
これは「伝記」と思っている読めばいい。
多くの優れた伝記同様に、そこにはフィクションにも劣らぬドラマがあり、
他人の経験から学ぶべき教訓も多い。

そしてなにより、その物語に自分自身が刺激され、励まされる。
すべてを注いで仕事に取り組んだ成果が世に出したとき、目標が達成されたときの高揚感を擬似的に体験し、
それを実体験するために明日からまた頑張ろうと思わせてくれる。


第7章「人と組織」はキャリアやスキルに関する人材論・組織論的内容で、
DeNAという会社に特に興味のない人はこの章だけ立ち読みするとよい。
グローバル資本主義社会のひとつの頂点マッキンゼーでパートナーまで登りつめ、
その後はベンチャーを売上高2000億円企業にまで育てた稀代の経営者の語る人材論なので、それなりに参考になるはず。

たとえば、コンサルタントと事業リーダーの違い」というのは「胆力」にあるといったことや、
優秀さにもいろんな幅があるということは、実際にコンサルと事業とを両方かじってみると非常によくわかる。


それにしても、この本を読んでみると、マッキンゼーというプロフェッショナルファームのパートナーという仕事と、
ベンチャー企業の経営者との仕事をギャップは本当に天と地ほど違うように思えて、
その2つをジャンプした南場さんの勇敢さと志にあらためて舌を巻く。
世間的に見ても完璧に「格好いい」成功したキャリアと生活スタイルを実現していた南場さんにとって、明日も見えない世界で泥にまみれて戦うベンチャーの世界は本当に「不格好」なものだったのだろう。
でも、それを成し遂げた南場さんは誰がどう見ても最高に格好いい経営者だと思う。

僕もこの人と仕事がしたいです。不格好でいいから。



2013年6月9日日曜日

中途半端はきついよね、というシャーロット・コットンの話

写真雑誌IMA最新号のシャーロット・コットンの連載がまた今回も面白い。

若い才能が出てくるのを見つけるのは楽しいよねっていうことは甚く共感しつつ、
今回も僕の知らない作家を見つけてきて紹介しているシャーロットさんに感謝しつつ羨みつつ、今回は写真の世界の構造の話が面白いので紹介する。

シャーロットさんは写真の世界の構造を映画の世界との比較で説明している。
曰く、
a) 映画の世界では、大規模資本の豪華大作が安定したニーズを確保
b) 一方、インディペンデント映画が発表の機会を得て、人気作品が広がっていく仕組みも確立
c) 紋切り型の中途半端な映画は全然駄目
という構造になっており、彼女の説明によれば写真も似たようなものである、と。

つまり、
a) 世界の巨匠(たとえばデュッセルドルフスクール)は安定した地位を確立し、その作品は世界の美術館を巡回し、グローバルアートワールドでは1千万円以上で取引される
b) 一方、若手作家やインディペンデント出版社の世界も元気で、アートワールドとは一線を画しつつ盛り上がり中
c) 一流出版社や伝統的なギャラリーに依存した中庸写真家達は、上記どちらの流れにも乗れず厳しい状況にある。
ということで、全くその通り、非常にわかりやすい説明だと思う。

問題は、どうすれば世界の巨匠の世界(a)に昇りつめられるかということで、これが大変難しい。
作家にとっても一大事だし、僕のように将来(a)まで成り上がれる才能をいち早く発見することに情熱を燃やしている変わり者にとっても一大事である。

間違いないのは、c)からa)に進んでいく道はまず存在しないということだ。
かといって、a)で盛り上がった作家がc)まで出世していくことも想像しがたい。

このへんについては思うところあるが、余計なことを書くと(もう書いている気がするが)いろんな人の反感を買うのでやめておくことにする。

結論的には、
作家は自分のゴールを定めて、ちゃんとそれに辿り着けるルートでキャリアを築こう
(入り口を間違えると行きたいゴールに出られない)、
ということでしょうか。