2013年2月21日木曜日

イノベーションの教科書『ゲームの変革者』

最近こういう本こういう本など、イノベーションに関する書籍が多い。
「イノベーションを起こせないとダメだよね」っていうことはビジネスの世界ではもはや「利益が出ないとダメだよね」っていうことと同じくらい共通認識になっている(注:常識だけどイマイチ理解できていない人も多いという皮肉です)。

イノベーションに関する本に関して言えば、2009年に出版された『ゲームの変革者:イノベーションで収益を伸ばす』(A.G.ラフリー、ラム・チャラン共著)が今もなお最も充実した本だと思う。

■どんな本か?
著者の一人A.G.ラフリーは2000年に当時長期低迷に陥っていたP&GのCEOになった経営者で、その後数年間でイノベーションを中心に据えた一連の改革を実行し、見事P&Gを世界を代表するイノベーション企業に仕立てた偉大なる経営者だ。
ラフリーはGEのフェフリー・イメルトCEOと並んで、イノベーションのグールー(教祖)だと勝手に思っている。

この本はラフリーがP&Gをいかに改革して、一連のイノベーションを生み出してきたかが中心に描かれた、イノベーションの教科書のような本だ。P&GだけでなくレゴやGE、デュポンなどなど、400ページにわたり豊富な事例が取り上げられたイノベーションの事例集の本でもある。

■キーメッセージは?
この本で著者が言いたかったことをものすごく大雑把に言えば、以下の3つくらいにまとめられる。

  • 企業が継続的に成長するにはイノベーションが不可欠である(洗剤のようなコモディティにおいても)
  • イノベーションは天才が起こす奇跡でも偶然の産物でもなく、統合されたプロセスから生まれる成果である
  • 「消費者がボス」である
で、具体的にどうやったらいいのかということが、事例を通じてかなり包括的に説明される。

■いかにスゴイ本か
この本の凄まじいところは、デザインシンキングの本や一事業におけるイノベーションの方法論のような断片的な内容だけではなく、ストラテジー(全社戦略)、組織、リスク管理、リーダーシップ、人事など、およそ経営者が判断しなければならないようなあらゆる内容を全部含んでいるところだ。
そしてそれら全てが「消費者がボス」という哲学を貫いている。

ユーザー中心思想が重要だ、コラボレーションやプロトタイピングが重要だということは簡単だが、実際にすでに回っている大企業においてプロセスやオペレーションまで落とし込むのは全然簡単ではないはずだ。デザイン思考の伝道師になっているIDEOのCEOティム・ブラウンみたいなコンサルタントは、そういう一番厄介な組織上の問題を気にしなくていい。

IDEOに関していえば、P&Gはイノベーションのソースのうち50%を外部から取り入れるという方針のもとIDEOと協力していろいろやってきた会社なので、本の中でもIDEOのオフィスの話やブレインストーミングの話なども出てくる。Tim Brownの『Change by Design』より早い。

本当は組織に関する部分(資金提供の仕組みや組織外との協業)、リスク管理(ポートフォリオによるリスク管理やプロジェクト評価・管理の仕組み)などを読み込むとその具体性がすごいのだけれど、多分実際に本を読まないと面白くないので、ここでは説明しない。

僕はおそらく今後もこの本を何度も読み返すことになると思う。
こんなに迫力のあるビジネス書はなかなかない。バイブル。




『Think!』より僕の方が早い

コンサル教科書的雑誌『Think!』の最新号「イノベーションの起こし方」で、takram田川欣哉さんとアーティスト・スプツニ子!の記事が載っているが、お二人とも2年以上前に僕がインタビューしてますから。

最近は忙し過ぎてインタビューとかはやめてしまったけど、話を聞きたい人を探して自分で会いにいくのは楽しい。

僕は20代の2/3くらいを会計に費やしてきたのでその道ではある程度プロですが、
一方でInnovationをもうひとつのテーマにしている。
その両者のギャップがありすぎて、なかなか両方をつなげられるキャリアというものが描けていないんだど。

ちなみに『Thinki!』は1890円ですが(高い!)、僕のインタビュー記事は無料です。
田川さんのインタビューはこちら
スプツニ子のインタビューはこちら



2013年2月1日金曜日

読書:『アートスクールで学ぶ 101のアイデア』(キット・ホワイト著)

何気なく手に取ってみた『アートスクールで学ぶ101のアイデア』(キット・ホワイト著、フィルムアート社)という本。これがアートにとってすごく本質的なことをコンパクトにまとめていてなかなかよい

その一部を抜粋で紹介。

5. メディアは表現の一部である
メディアは作品の第一のアイデンティティです。ドローイングでも、絵画でも写真でも、何が表現されているかは二の次です。メディアこそが内容を規定します。下手に描かれたものは見向きもされません。一方、内容がたいしたことがなくても、完璧な技巧で書き出されていれば傑作になります。全ての名作において、用いられているメディアと表現されている内容は不可分なのです。表現したいことを伝えるために、技巧を磨きましょう。

10. アートは自己表現ではありません
アートが自己表現であるというのは誤解です。アートは文化そのものの表出なのです。私たちは日々、(中略)さまざまな情報源から大量の情報を受け取っています。これらの情報は私たちが作ったものではなく、むしろ私たちを形作るものです...

63. 自分の作品を語れるか
自分の作品について語ることは、作品を見る人に意図を説明するときに大事なだけでなく、自分で自分のしていることを理解するのにも役に立ちます。作品の背後にあるものや、個人的な動機を長々としゃべることは避けましょう。作品に現されていないものに言及すると誤解を生みます。作品はその内容の出発点であり、終着点なのです。
"
(太字、下線は僕がつけました)

といった感じで、僕が日ごろ「やれやれ、勘弁してくれよ」と思うアートの特徴、当たり前なんだけど実際は多くのアーティスト/美大生が実践していないことが端的に指摘されており、ぐいぐいと刺さる。
怖い先生の説教のようですらある(実際、著者はNYにある美大プラット・インスティチュートPlatt Instituteの先生らしい)。

というわけで、アートを目指す人は全員必読。
フォトグラファーだけど、実はちゃんとFine Artを学んだことのない人も必読。



Maxime Ballesteros君の宣伝

まったく巷で知られていないが、最新号の(とってもだいぶ前に出版されたけど)『Purple Fashion #18』にMaxime Ballesterosという写真家のそれなりにまとまったページ数のエディトリアルが載っている。

このMaxime君、3年も前に発掘して彼の最初のzine "a step back"を作ったのは僕らTYCOON BOOKSだったりする。
彼に会うために僕は12月に極寒のベルリンまで行ったよ。

自慢だが、僕らのzineの方がフレッシュでかっこよいと思います。


お買い求めはこちら

(『Purple Fashion #18』は以下のような感じ。ご参考まで。)



アートばっかりだと肩が凝るので、軽やかでファッショナブルなzineを作りたい今日この頃。